[腎センター内科] 腎臓病の基礎知識
腎臓病の基礎知識
腎不全に至る主な原因は糖尿病、慢性腎炎、腎硬化症です。しかし、腎臓病治療学の進歩により、これまで治らないとされてきた腎臓病の中には治せるものもあることが判明しつつあります。これらの腎臓病について解説します。
■早期診断の重要性について
本来治せる腎臓病であっても時期を失しては治せなくなります。血清クレアチン値が異常値に上昇するのは、腎臓が1/2から2/3破壊された状態に近いことが多い。破壊された部分を元に戻すことは現時点では不可能です。それ以前の時期に専門医に
よる診断と治療をおこなうことが重要です。診断法の一つに腎生検という検査があります。当院では年間300例以上の腎生検
を行い、患者さんの腎臓病の病状にあった治療方針を立てております。
■IgA腎症
慢性腎炎の中で最も高頻度、かつ、世界中で透析に至る原疾患として患者数の最も多い腎炎がIgA腎症です。この疾患の進行の度合いは患者さんにより幅があり、早ければ5年程度で遅くとも20年前後で腎不全に至ることがわかってきました。
これまでは、IgA腎症は治せない病気であるという前提での治療法が行われてきましたが、我々は10数年来、扁桃摘出術と1
年以内という短期間のステロイド療法を組み合わせる治療法を行い、その結果、当院小児科においては90%以上の患児におい
て、そして当科においては500例以上の患者さんの約70%において蛋白尿も血尿も消失しております。
これらの患者さんでは皆、腎臓の機能が保たれています。これは本症が治せる疾患であることを示しています。ただし、既に
進行してしまってからではこの治療でも完全に治すことはできません。現在、いくつかの大学、病院と協力してこの治療が他
の治療に比べて優れているかどうかを検証しています。
10数年に及ぶ本疾患に対しての積極的治療の成果として、この数年間持続して腎炎により透析に至った患者数(対人口比)は
全国の都道府県のうちで宮城県が一番少ないという現実となって表れてきています。
■その他の腎炎、ネフローゼ
急性糸球体腎炎はある種の細菌、ウイルス感染の後に生じる腎炎で、自然治癒が望めます。ネフローゼ症候群のうちでも、微小変化型ネフローゼはステロイド療法が有効です。膜性腎症、膜性増殖性腎炎においては蛋白尿が大量となり易いですが、初
期に積極的な治療を行えば治癒が望めます。しかし、治療が不十分に終わり蛋白尿が持続した場合には長期的には進行する
と考えられます。
■糖尿病性腎症
現在、透析が必要になる腎不全患者さんの1/3は糖尿病性腎症です。日本では糖尿病の大多数はII型の糖尿病で、豊かな時代と車社会という現代文明に根ざした疾患とも言え、生活習慣病に対する根本的対策が必要です。
血糖管理がうまくなされれば糖尿病性腎症は生じないですむが、糖尿病性腎症により尿蛋白が常に陽性な段階になってしまう
と、いずれは進行すると考えられていました。しかし、一昨年、医学雑誌(New England Journal of Medicine)に膵移植を
うけたI型糖尿病患者が、移植や薬物治療により、血糖と血圧が完全に正常化することによって、10年後には一旦発生した糖
尿病性腎症を消失させることが報告されました。II型糖尿病においても、食事療法と運動療法の基本治療に加え、血糖及び血
圧の正常化を目指して厳密なコントロールを長期間保てるならば同様な現象を期待できる可能性も出てきました。我々は糖尿
病性腎症の克服を臨床腎臓病学の21世紀の課題と捉えています。特に初期の糖尿病性腎症に対しては、腎生検による組織診断
をなるべく行い、障害のタイプに合った治療計画を立てて行きたいと考えています。
■高血圧性腎硬化症
II型糖尿病と同様に生活習慣病として総合的な対策を講じる必要があります。今まで考えられてきた以上に厳密な目標血圧値の設定と、アンギオテンシン変換酵素阻害剤やアンギオテンシン受容体拮抗剤を主体とした降圧剤の使用により、本症の腎障
害が軽度な時期であれば治癒を促がす可能性が出てきています。